米国の家計所得について

ハト派とされるボストン連銀ローゼングレン総裁は、「米経済の基調的な強さについて市場は過度に悲観的になっている。金融緩和策の解除の公算は大きい。
利上げの確率は市場が織り込むより高い」と述べ、市場見通し対比でタカ派な発言を行った。ローゼングレン総裁がそうした発言を行う根拠の1 つとして、講演で使用された以下図表の通り、1-3 月期に景気が落ち込み、4-6 月期に回復するアノマリーなど、リバウンド期待がある。

それに対して、「米経済の基調的な強さについて市場は過度に悲観的になっている」のは、過去数年の1-3 月期の景気の落ち込みには悪天候等の特殊要因があったことに対して、今年はこれといった特殊要因がなかったことがある。そのため、市場では、経済の基調的な強さは弱いという判断になる。

今、米国経済に関して、よくわからないことが2 つある。1 つは、雇用市場が堅調な一方で、GDP が停滞していることである。この点に関して、先週ニューヨーク連銀ダドリー総裁は「こういう時、雇用市場のデータの方がより信頼性が高いと思う」と述べた。いずれGDP が回復するとして、もう1 つわからないことが、雇用者所得が堅調な一方で、生活防衛意識が高まっているように見えることである。

まずは、先月時点で見えていた、米国家計の生活防衛意識の高まりを確認したい。その1 つとして、雇用者所得が堅調な伸びを示す一方で、ここもと貯蓄率が上昇している事実がある。また、4 月FOMC 声明文でも個人消費に関して、「家計支出の伸びは緩やかになった」とされ、前回の「緩やかなペースで増加」から下方修正された。

そうした生活防衛意識の高まりは、消費者サーベイからも確認される。3 月時点のニューヨーク連銀の消費者期待サーベイは、インフレ期待が低下する一方で、生活費関連のコストの高止まりを示した。1 年インフレ期待が2 月の2.71%から2.53%となるなど、インフレ期待が低下する一方で、生活費関連のコストは、食料品+4.68%、医療費+9.06%、教育費+6.43%など高止まりしている。

コンファレンスボード社の消費者信頼感指数では所得の減少懸念がジワりと高まってきている。4 月時点のミシガン大学の消費者信頼感指数では、同指数の調査責任者のカーティン氏は、「差し迫ったリセッションを示唆するものではないが、この先数ヶ月の個人消費の回復力に懸念が高まった」と述べ、その理由として、賃金上昇期待の低下、インフレ調整後の所得期待の低下、減速する景気が雇用の増加ペースを鈍化させる懸念、を挙げ、所得期待の悪化が消費者マインドに影響していることを指摘した。すなわち、市場での米国経済の基調的な強さは弱いという判断は、米国家計の生活防衛意識に基づくものであると言える。

そうした中で先週末に発表された、4 月の米小売売上高と5 月ミシガン大学の消費者信頼感指数(速報値)は逆転ホームランだったと言える。
4 月の米小売売上高は前月比+1.3%となり、市場予想平均の同+0.8%に対し大幅に上ぶれした。もっとも、これは自動車関連が前月比+3.2%(寄与度+0.66%)、ガソリンスタンドが同+2.2%(同+0.16%)となったことによるもので、もともと総合指数が強めとなることが予想されていた。より重要なのは、GDP 個人消費の基礎統計となるコントロールグループも市場予想平均の前月比+0.4%に対して+0.9%と上ぶれしたことで、幅広い項目での増加が見られることだ。3 ヶ月平均の年率換算ベースでは+3.9%となり、3 月時点の同+2.8%、昨年12 月時点の同+1.3%から加速した。
また、5 月ミシガン大学の消費者信頼感指数(速報値)も、市場予想平均の89.5に対して95.8 と大幅に上ぶれした。先行きの所得期待の改善などによって、ここもと現況指数対比で停滞していた期待指数主導で上昇したところに特徴がある。
前述したミシガン大学のカーティン氏も「幅広くセンチメントは改善した。2016年消費支出は2.5%を予想、センチメント高止まりなら上方修正もある」と述べ、先月のダウンサイドリスク警戒発言から明確に変化した。

これらデータは、4-6 月期のリバウンド期待(確度)を高めるものである。実際に、アトランタ連銀が試算する4-6 月期のGDP 見通し(GDP ナウ)は先週末に+2.8%へと上昇した。そして、4-6 月期に景気のV 字回復が見られた場合、ローゼングレン総裁が述べたように、「金融緩和策の解除の公算は大きい。利上げの確率は市場が織り込むより高い」ということになる。

では、どの程度のリバウンド力が見られた場合、FED は利上げに進むことになるのか。ローゼングレン総裁は、4-6 月期の成長を占うデータは現時点では限られるとした上で、自身が1.75%と予想している潜在成長率よりも、幾分高い成長を予想しているとの考えを示した。2%程度ということだろうか。その程度のリバウンド
でいいのであれば、利上げのハードルは意外と低い可能性がある。今週は、19 日にニューヨーク連銀ダドリー総裁の講演(テーマはマクロ経済のトレンド)が予定されている。利上げに向けて歩を進めてくるのかが注目される。

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