イタリア銀行の不良債権問題。イタリアは失われた20年になるのか

イタリアの銀行は収益性が低く、それに対し不良債権比率が高い。
この問題が注目されてから、為替市場はリスク回避の円高が進んだ。
今後はユーロの行方にも火種になると思われるイタリア銀行について分析する。

イタリアの銀行が抱える問題
Brexitは、ユーロ圏およびEU
の政治、経済レベルでの脆弱性を浮き彫りにした。
イタリアでは、Brexitが脆弱な銀行セクターに与える経済的影響が、深刻な政治問題に発展する可能
性が高い。欧州委員会は、欧州で第二の英国が生まれる事態を許容しない観点から、政
治問題化の回避を試みるとみずほインターナショナルは予想する。現在、民間投資家主導
の解決策が模索されているものの、必要が生じれば、イタリアの銀行問題に対して技術的
な解決策が導かれるとみている。

イタリアの銀行の脆弱性は新しい問題ではないが、Brexitの影響が波及

イタリアの銀行が抱える多額の不良債権と収益性の低さという問題は、従来から注目を集めてきた。イタリアの銀行システムは、08~09年の金融危機の影響を他国よりも適切に消化したものの、深刻な景気後退の長期化などを背景に、多額の不良債権が発生した。

他のユーロ圏諸国が13年初めにソブリン債務危機に伴う景気後退の二番底から脱却する一方で、イタリアは三番底に陥った。その結果、イタリア経済は15年初めになってようやく、
四半期ベースの連続的なマイナス成長が3回繰り返された状況から脱却した。イタリアを除
くユーロ圏全体の経済成長率が、15年初めには前回ピーク時(08年)
の水準を回復したのに対して、イタリアの実質GDP成長率は16年初めになっても依然としてピーク時を
8%以上下回っていた。
IMFは最近のスタッフ・レポートにおいて、イタリア経済が前回ピーク時08年)の水準に回復するのは
20年代半ばになると分析した。つまり、イタリアは「失われた20年間」を経験することになる。

このような状況において、
Brexit
賛成派が勝利を収め、その結果
EU
の経済成長や金融システム全体の安定に対する脅威が台頭したことが、銀行株の急落に反映されるように、イ
タリアの銀行の脆弱性に対する懸念を悪化させる要因となった。
しかし重要なのは、イタリアの不良債権問題が、
銀行による適時の不良債権処理を阻害す
る繁雑な法的手続きの問題でもあるということだ
。みずほインターナショナルは、融資が不
良債権化してから破産、最終的な回収に至るまで、依然として
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年の期間を要すること
と確認している。つまり、イタリアの銀行は現在、09年に発生したデフォルトの手続きをようやく完了しようとする段階にある。
マクロ経済の観点からは、多額の不良債権を抱える銀行は、信用を供与して景気回復を支える能力が乏しい。
昨年末時点では、イタリアの銀行が抱えるグロスの不良債権は3,600億ユーロに達してお
り、これは総融資残高の18%強、GDPの22%に相当する不良債権残高をみる限り、イタリアの金融システムは他のユーロ圏諸国よりも脆弱な印象を受ける。
しかし重要なのは、銀行は多額の引当金を計上済みであり、担保による保全率も高く、あ
る程度の回収も見込まれることから、不良債権残高が見かけほど懸念すべきものではない
ということである
。昨年末時点では、グロスの不良債権残高は
3,600
億ユーロであった
(

融資残高の
18%)
。このうち、「不良融資」は
2,100
億ユーロ
(
融資残高の
10.6%)
であり、計
上済みの
1,230
億ユーロの引当金を考慮すると、ネットのエクスポージャーは870億ユーロ(融資残高の5%弱)
に減少する。また、IMFが指摘するように、この数字は、不動産担保が850
億ユーロと大きいことや、それ以外に個人保証が370
億ユーロに相当することを踏まえて評価する必要がある。
残りの1,500億ユーロは、返済見込みの低い債権、延滞債権、財務制限条項に抵触した債権と分類されている。イタリア中銀は、このうちの相当額(おそらく総融資残高の2%程度)
が正常分類に戻る可能性があると推計しているが、これらの債権も引当金や担保によって十分に手当てされている。
また、すでにターニングポイントに達したことも指摘しておくべきだろう。景気後退の遺物である不良債権残高は依然として大きいものの、イタリア中銀によると、新規の不良債権発生率(総融資残高対比)は14年の4.8%
、15年の3.7%から16年Q1には年率換算で2.9%まで低下した。これは世界金融危機の発生以降で最も低い水準である。


イタリア政府は、銀行が抱える問題に多方面から対処しようとしている
。前述通り、問題の中心は積み上がった不良債権である。不良債権をより速いペースで処理することが、銀行
の財務健全性を回復させ、金融システムが実体経済向けに信用を供与する能力を改善させる上で極めて重要である。イタリア政府はこの問題に対して、法的枠組みの改革による破産手続きの迅速化、業界の統合、ガバナンス改革によって対処している。
i) 法律面では、手続きの期間を短縮する措置が講じられている。例えば、企業側と金融機
関側は、不動産担保の融資において、「patto Marciano」と呼ばれる新しい法廷外手続きを
合意することができるようになった。この合意では、債務者が破綻した場合、担保不動産に
債務者が居住していない限り、その所有権を債権者に移転することが認められる。これは
正しい方向の動きであり、不良債権の迅速な処理に寄与するケースが想定される。ただ
し、典型的な時間軸が6~8年から6~8ヵ月に短縮されるという話は誇張されたものとみている。
ii)
業界統合とガバナンス改革。
IMFは、イタリアの極めて細分化された銀行システムを統合する試みとして、大規模な信用組合
(popolare)と小規模な信用組合(mutual)のガバナンス構造を改革するための法律が、前者については昨年
3月に、後者については今年2月に制定されたことを指摘した。
iii)
不良債権市場を発展させる試み
。公的支援に該当してしまうとの懸念を背景に、銀行システム全体をカバーするバッド・バンクの設立案が合意に至らなかったことを受けて、イタリア政府はその代わりとして、銀行の増資をサポートするとともに、不良債権市場の発展を促す取り組みに着手した。代表的なものを挙げると、
9
GACS
:
投資適格級の不良債権の証券化商品のシニア・トランシェに政府保証を付与する枠組みとして、年初に設立された。これは銀行が公的保証に対して保証料を支払う仕組みであることから、公的支援には該当しない見通しである。しかし、みずほインターナショナルは、銀行にとっての有用性は比較的小さいため、効果は限定的になる可能性が高いとみる。
9
アトランテ基金
:
小規模な銀行の増資を支援する目的で
4
月に設立された。資金は主に
国内の大手銀行が拠出し、政府の関与は
10%
を上限とする。また、同基金は不良債権
を買い取ることも可能であるが、規模は
50
億ユーロ未満と小さいため、不良債権問題に対する効果は小さいとみる。ただし、報道によると、民間主導の取り組みを推進し、場合によっては第2弾のアトランテ基金を設立する動きが進んでいるようである。

さらに同副総裁は、
BRRD
の適用が必須ではあるものの、第
32

(4.d)
で想定されるよう
に、国レベル、
EU
レベルにおける金融システムの安定上の理由に基づく例外規定の適用
の可能性を含め、全体として検討するべきとのメッセージが
IMF
の警告には含意されてい
ると述べた
2

ECB
のドラギ総裁も同じ立場であり、銀行の不良債権処理に際しては公的支
援によるバックストップが有用であると述べた。同総裁は、資産の投げ売りを回避するべき
という見方、そして既存の
EU
規則には公的支援を許容する余地があるという見方を強調し
た。
欧州委は、イタリアの個人投資家にベイルインを適用することのリスクを十分に認識してい

。法律を可能な限り柔軟に解釈することによって、個人投資家の保護、補償を可能にす
る欧州型の技術的な解決策が導かれるとみずほインターナショナルはみる。欧州委は、
Brexit
直後にレンツィ首相の政治的失敗を許容する余地がないことを十分に認識してい


全面的な金融危機
:
レンツィ首相にとっての致命的な打撃
憲法改正に関する国民投票を
10
月に控え、レンツィ首相は是が非でも金融危機を回避す
る必要がある
。国民投票の目的は、法的手続きの迅速化である
3
。投票日は最終決定して
いないものの、レンツィ首相は改革案が否定されれば辞任すると警告していることを踏まえ
ると、結果次第ではイタリアが「
Brexit
モーメント」を経験することも考えられる。
6月以降、世論調査では憲法改正反対派が賛成派をわずかに上回るなど、そのような展開も十分に現実的になった。ただし、本レポートの執筆時点では、賛否不明との回答が40%近くに達するなど依然として非常に大きい。
問題は、野党が憲法改正に関する国民投票を国全体の信任投票に位置付けようとしてい
ることである。レンツィ首相が辞任した場合、反ユーロ派の「五つ星運動」が政治的空白を埋める公算が大きい。同党は、一部の主要都市において6月に実施された重要な市長選挙で勝利を収めた。世論調査の平均支持率は30%を上回り、レンツィ首相率いる民主党を抜いて第一党になろうとしている。年初には、民主党が「五つ星運動」に6ppt近い差をつけていたことを踏まえると、世論が反民主党の方向に急変した様子がうかがえる。総選挙は18年5月までに実施されることになっているものの、当然のように、「五つ星運動」は国政レ
ベルで権力を誇示するために早期の実施を要求している。また、ユーロ圏加盟維持の是非を問う国民投票の実施を主張している。

「五つ星運動」もレンツィ首相と同じように、個人投資家に致命的な打撃を与えるとして、欧
州委に対してベイルインの適用回避を求めている。一方、EU高官は、スペインにおける
12年の銀行救済プロセスにおいて劣後債の元本を削減した際に、個人投資家に補償を行った事例のように、イタリア政府が個人投資家に補償するのは自由であると強調している。
イタリアの経済情勢
イタリア経済には回復の兆しがみられるものの、その勢いは弱く、Brexitがユーロ圏の経済
成長を下押しすることもマイナス要因である。イタリア政府は3
回目の景気後退局面からの浮上を目指しているものの、四半期の実質GDP成長率が0.1~0.3%と非常に低く、
08年Q1のピーク時を依然として8%以上下回る。

また、内需は回復したものの、他のユーロ圏諸国と比べると勢いが弱い。その一因は銀行問題である
。多額の不良債権を抱えるイタリアの銀行が非金融系法人向けに信用を供与する能力は、他のユーロ圏諸国の銀行と比べて限定的である。また、他国に比べ緩慢な実効為替レートの低下がさらなる輸出低迷を促しているという構造問題も要因の1つである。

その結果、イタリアは労働市場改善においても他国に遅れをとっている。失業率はピーク時の水準
(13%強)よりは低いものの、11.5%と依然として二桁台であり、この1年はほとんど改善してない。

レンツィ首相は、広範にわたる改革に着手した
。その結果、みずほインターナショナルが
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日付の本レポート「構造改革の停滞」で指摘したように、ほとんどの構造改革の分野で
は、他国との格差が“赤信号”から“黄信号”へと改善し始めている。しかし、上記レポートで
指摘したように、さらなる取り組みが必要であり、労働市場改革を始めとする幅広い分野で
改革の余地が残る。
問題は、レンツィ首相の任期の中間時点において、政治環境が一段と複雑化したことであ
る。構造改革の成果が顕在化するまでには時間が必要であり、上記で概略したように、金融セクターの問題やポピュリスト政党の「五つ星運動」に対する支持拡大を踏まえると、レンツィ首相は多岐にわたる改革戦略を完全に追求することが不可能になるかもしれない。
また、レンツィ首相が今年に入って財政政策を緩和したこともリスク要因である。構造的な債務削減の取り組みは、18年の議会選挙後に先送りされた。このため、低成長の長期化によって、脆弱な金融システムの問題解決に引き続き時間がかかるだけでなく、政府債務の持続可能性がイタリア経済のマイナス要因として再浮上するおそれもある。市場に注目すると、イタリア国債にとって、国内の銀行問題と10月に予定される憲法改正
に関する国民投票が重しとなり、この先数ヵ月間はスペインなどの他の周縁国の国債に対して伸び悩む見通しである。

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