2017 年のブラジル経済について

レアル相場、ブラジル株相場が急騰した 2016 年
ブラジルにとって 2016 年は激動の 1 年であった。本稿では 2016 年のブラジルの証券市場と政治経済の動向を振り返り、2017 年がどうなるか考察したい。
為替相場と株式相場に関しては、2016 年は「激動」と言うよりも「最高」の一年と呼ぶべきだろう。レアルの対米ドルの年間騰落率は+22.0%と、全通貨の中で第 1位であった。また、ボベスパ指数の年間騰落率は+38.9%だが、米ドル換算では+69.1%となり、主要国の株価指数で最高のパフォーマンスである。
これは、昨年 5 月に左派の労働者党(PT)のルセフ大統領が職務停止となり(8 月に罷免)、13 年 5 ヵ月ぶりの政権交代が実現。中道右派のブラジル民主運動党(PMDB)のテメルが新大統領に就任したことで、経済政策の軸足が所得の再分配から経済成長へと移り、景気がV字回復するとの期待が高まったことに因るものである。

実体経済は未だ回復せずしかし、実際の景気回復には至っていない。年間ベースの実質 GDP 成長率は 2015 年
の-3.8%に続き、2016 年も市場予想で-3.5%と、大幅なマイナス成長に終った模様である。
四半期の動向では 2016 年7-9 月期が前期比で-0.8%と7 四半期連続のマイナス、前年比では-2.9%で 10 四半期連続のマイナスだった。同年 10-12 月期、及び通年のデータは 3 月 7 日に発表される。
産業部門別のGDPの動向を見ると、鉱工業が 2016 年 4-6月期に前期比でプラス成長に一旦は転じたものの、7-9月期に再びマイナスに転じた。一方、サービス業は 7 四半期連続のマイナスとなっている。
需要項目別のGDPでは民間消費の前期比マイナスが 7 四半期続いている。政府消費の2016年4-6月期は小幅なプラスだったが、7-9 月期はマイナス。総固定資本形成も 4-6 月期はプラスだったが、7-9 月期はマイナスに転じた。純輸出はレアル安効果により、2015 年 1-3 月期から 5 四半期連続プラスだったものの、2016 年 4-6 月期はマイナスに転じ、7-9 月期の寄与度はほぼゼロだった。

製造業には回復の兆し月次の鉱工業生産の動向を見ると、2016 年は 1、3、4、5、6、9、11 月が前月比プラスであり、製造業は既に底を打ったと見てよいだろう。2 月 1 日に発表される 2016 年 12 月の数字
は、34 ヵ月ぶりの前年同月比プラスとなる可能性が見えてきた。製造業が回復しつつある要因としては、2015~6 年が 2014 年までと比較して大幅なレアル安であったため自動車を始めとする工業製品の輸入が減る一方で輸出が増えたこと、在庫循環において「意図せざる在庫減少局面」から「在庫の積み増し局面」へと入っていること、等が考えられる。


サービス業の回復は今年後半か一方、景気回復の足を引っ張っているのはサービス業である。小売売上は 2016
年 11 月まで、前年比で 20 ヵ月連続のマイナス、前月比でも 2016 年は 1、3、5、7、8、9、10 月がマイナスとなっている。これは、雇用市場の回復は景気の動きに数ヵ月から半年ほど遅行するものであるため、失業率の上昇が止まっておらず、小売売上などのサービス業の回復が遅れているものと思われる。失業率の頭打ちとサービス業の回復は今年の半ば頃となりそうである。

景気回復の遅れに対してテメル政権は昨年 12 月、景気刺激策を発表した。その目玉は退職金の引き出し要件の緩和である。FGTS(勤続期間保障基金)と呼ばれる退職金を早く引き出せるようにすることで1,020万人の労働者の可処分所得が300億レアル増え、GDP を 0.5%押し上げる見込みとのことである。財政出動の余裕がない政府の苦肉の策と言える。
GDP が前期比でプラスに転換する時期はいつか。昨年 10-12 月期の可能性もまだ残る。しかし、景気先行指標の PMI(図表 15)と信頼感指数が昨年 10,11月頃から再び軟化している点が景気回復の遅れを示唆しているようにも見える。産業別 GDP のウエイトは農林水産業が 7%、鉱工業が 22%、サービス業が 71%のため(2015 年 10 月~16 年 9 月、税除く)、サービス業が回復しないことには景気全体の回復も困難だろう。従って GDP が前期比プラスを取り戻すのは今年 7-9 月期にずれ込む恐れもあるのではないか。


景気回復を助ける金利の急低下
財政出動を行う余裕の無いブラジル政府にとって救いはインフレ圧力の低下である(図表 17)。消費者物価は昨年 1 月に前年比+10.7%まで上昇したが、その後は急低下し、12 月は+6.3%と 32 ヵ月ぶりの水準に戻っている。こうしたことから、ブラジル中銀は昨年 10 月、4 年ぶりの利下げを行い、政策金利を 14.25%から 14%
へと 0.25%引き下げた。11 月の金融政策決定会合でも再び 0.25%引き下げ、更に1 月 11 日は利下げ幅を 0.75%に拡大している。次の会合は 2 月 21,22 日であるが、0.75%の利下げ幅を当面継続する可能性もあると思われる。金利の急低下は設備投資を拡大させ、低迷が続く消費を下支えしよう。


財政再建が景気回復より優先の課題
景気回復はブラジルにとって重要な課題ではあるが、より優先度が高いのが財政再建である。昨年の公的部門の基礎的財政収支は 1995 年の統計開始以来、最悪となる対 GDP 比 2.5%程度の赤字に達したと見られるが、これを黒字に戻さなくては債務の増加が続くことになる

現テメル政権による財政再建策の柱は 2 つ。中央政府の支出の伸びを 20 年間に亘って前年のインフレ率以下に抑える歳出抑制法案と、年金の支給開始年齢を現在の女性 55 歳、男性 60 歳から男女とも 65 歳に引き上げる年金改革法案である前者は既に昨年 12 月に可決・成立しており、後者は今年 2 月から議会審議が始まり、3 月に下院を通過、6 月までに上院で可決・成立する見通しである。政府では両法案の成立によって 2019 年から基礎的財政収支が黒字化すると見込んでいる。

政治の混乱で財政再建が遅れる可能性
以上の通り、今年は景気回復と財政再建が進むと予想するが、リスクシナリオもある。それは政治の混乱である。ゼネコン最大手オデブレヒトの幹部社員 77 名が昨年 11 月、違法行為を告白する代わりに刑罰が軽減される報奨付き供述に応じた。
その内容が 12 月に週刊誌報道でリークされ、テメル大統領や現政権の複数の主要閣僚に収賄疑惑が浮上している。2014 年の大統領選挙でも不正献金があったとされているため、高等選挙裁判所(TSE)が同選挙を無効と判断する可能性がある。この判断が昨年末までに下された場合は国民による直接選挙でやり直しの大統領選
挙が行われていたが、今年 1 月以降の場合は連邦議会議員による間接選挙で新大統領を選出する規定となっている。可能性は低いと考えるが、テメル大統領が失職した場合、年金改革法案等の議会審議が遅れること
は必至であろう。また、次の大統領が誰になるか次第だが、経営者や消費者の信頼感が悪化し、景気回復に
水を差すことも考えられる。

テメル大統領の失職以外にも政治リスクはある。それは、政権支持率の低迷である。テメル政権の連立与党は閣外協力も含めると定数の 8 割弱を占め支持率の低下で求心力を失うと、与党議員も政府の意向に従わなくなり、年金改革法案等の財政再建策が議会を通過できなくなる恐れがある。ルセフ前政権も昨年 3 月初めまでは与党が 6 割前後の議席を占めていたが、国民の支持の離反を見て連立からの離脱が相次ぎ、政権が一気に瓦解したことは記憶に新しい。


米トランプ政権誕生によるブラジル経済への影響はプラス
このほか、リスク要因として考えなくてはならないのが、保護主義の色合いが強い米国のトランプ政権の貿易政策かもしれない。米国はブラジルの輸出先として 12.5%を占め、中国に次ぐ第2 位の輸出先である。しかし、コーヒーを始め、米国と競合しない品目は影響を受けない。また、世界の自由貿易の流れから取り残されたブラジルにとって、環太平洋経済連携協定(TPP)が破談となればプラスである。
北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しもマイナスにはならない。何よりもトランプ政権のインフラ整備計画は鉄鉱石、鉄鋼、セメントといった建設資材関連業界には業績押し上げ要因となるため、ブラジル経済にとって全体的にはプラス面が大きいと言えよう。

ブラジル経済にとって米国同様に影響が大きいのが最大の輸出先である中国と言える。昨年の 1 月は中国の製造業 PMIが弱かったことから、同国景気の失速懸念が台頭した。しかし、今年の元旦に発表された同指
数は 51.4pt と過去 3 年で 3 番目に強い数字となり、こうした懸念は後退している。
また、トランプ政権のインフラ整備計画により、ブラジルの鉄鉱石の輸出先と最終需要地としての中国への依存度が低下するため、従来ほどは中国景気の動向を気にかける必要はないのかもしれない

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